県内のリスキリング事例

デジタル化で他社と差別化
業務アプリの活用で取引先と共に成長

水木木材工業株式会社 (茨城県那珂郡東海村)

他社に先駆けてデジタル化を推し進め、社内における業務改善のみならず競争力の獲得にも繋げた水木木材工業株式会社。取引先とWin-Winの関係を生み出している、効果的なリスキリング事例を紹介します。

会社存続の危機を打開すべく
工場長自らデジタル化に着手

国内輸送や海外輸出に使用される梱包用木箱やパレットなど、木材加工を主としている水木木材工業株式会社。昭和35年に日立市で創業して以来60年以上の歴史があり、地元企業との取引を中心に操業してきましたが、一時は廃業もあわやという事態に陥っていたといいます。そんな危機を打破すべく、業務改善に着手したのが専務取締役の磯崎さんでした。

「20年ほど前に工場長を任されて、どうにか状況を立て直そうという中で、まず取り掛かったのが業務の『見える化』でした。当時、現場では受注状況や納期から作業にかかる時間の予測すらも出来ないような状況で、毎朝『今日はこれを作るよ』と言われたものをひたすらこなすといったやり方をしていました。事務の方も同様に、何から何までアナログでとにかく無駄が多かった。たまたま事務員さんがお休みの時に代理をやった時にそんな状況を知って、受注状況などをデータ化して管理することにしました」と磯崎さん。アナログ管理は水木木材に限った話ではなく、同業他社でもまだPC導入すら稀という中でしたが、先んじてデジタル化に着手することで差別化にも繋がるのではという期待も少なからずあったといいます。

とはいえ社内にデジタル有識者もおらず、磯崎さんが自分で専門書を読んで学ぶところからスタート。業務の傍ら、夜な夜な本を読み、慣れないソフトに四苦八苦しながら挑戦。2~3年もすると表計算ソフトでマクロを活用できるまでに。磯崎さんは発注情報のフォームを作成し、クライアントに自分で入力してもらうことで受注をデジタル管理に移行。データから工場への作業指示書も展開できるようシステム化させました。

「知識ゼロから始めましたが、ボタンひとつで発注入力、メーラーまで自動で立ち上げられる仕組みを構築できました。とっても便利ですよね。ある程度の理解度は必要になりますが、お客様にとっても便利なツールということで、結果として受注も増えました。受注や作業情報をまとめてデータベース化できたことで、大幅な効率化にもつながりました」と当時の流れを振り返ります。

専務取締役の磯崎さん自らITについてゼロから学び、全社へと波及

結果を示して理解を得
更なる利便性を追究

知識ゼロからスタートし、数年で業績を上向かせることに成功した磯崎さん。社内の一部からはデジタル化に反発する声も上がったそうですが、短期間で結果を示したことで理解を得ることができました。

「弊社の看板商品の木箱は、長いこと職人の経験則で設計し形にしてきました。いわゆる属人化していた作業を、商品データからサイズを算出できるようにすることで誰でも製作できるようにしたところ、『設計ノウハウを持つ技術者を育てるべきだ』という意見が出たんです。前社長すら反対していました。ですが、受注増など明らかな成果を出したことで今では『デジタル化が成功の鍵』という認識を共有できるようになりました」と磯崎さん。2016年からは、サイボウズ株式会社が提供しているクラウド型業務アプリケーション「kintone(キントーン)を導入。更なる業務改革を推し進めています。

「kintoneを導入したきっかけは、毎年参加していた公益財団法人日立地区産業支援センターのIT支援プログラムで勧められたからです。お客様とのデータ共有の利便性を高めたいと考えており、はじめは別のサービスを検討していたんですがうまく動かすことができず…kintoneを試してみたらピタリとハマりました」と磯崎さん。専門的な知識が必要なく、誰でもノーコードで簡単に業務アプリを作成できるのがkintoneの強み。自分で必要な時に必要なアプリを作ることが出来、もしうまくいかなくともリセットしてまた作り直せるのが魅力と磯崎さんも話します。

水木木材工業では、希望するクライアントごとにkintoneのゲストユーザーアカウントを作成しアプリ上でデータを共有しているといいます。「お客様から『アプリのここを変えてほしい』と言われて、パパっと修正反映できるのが良いです。システム業者にお願いしていたらこうはいかないですから」。ゲストユーザー契約に係る費用は水木木材工業が負担しており、その分価格は他社相場より上ですが「一回取引をスタートしたらほぼリピートしてくれる」といいます。

製造ラインの生産効率計算にもマクロを活用し、業績改善に貢献

社内スタッフのみならず
取引先の変革も促す

kintoneを活用したデジタルアプローチで、近隣企業中心からいまや南は大阪府、北は山形県にまで顧客が広がりました。「あくまでkintoneありきの営業戦略ではなく、既存のアナログ手法にも柔軟に対応しながら、お取引スタート後にkintone活用を勧めています。スピーディーなやり取りが可能になるだけでなく、データ活用でミスも防ぐことができますから。お互いの業務改善にも繋がると思い、能動的に働きかけています」と磯崎さん。実際に、あるクライアントではkintoneを導入し業務進捗が明らかになったことで、事務スタッフの動きが変化しより効率的に進められるようになったという事例もあるそうで、お互いwin-winの好循環を生み出しています。

kintoneアプリ上で発注履歴を確認でき、製造の進捗状況も確認が可能。情報の共有は安心感に繋がり、確実にデータ管理された製造現場では納期の遅延も絶対に起こりません。デジタル化で利便性、信頼性を味方につけた水木木材工業は、他社との価格競争に巻き込まれることのない企業力を誇示しています。

磯崎さん一人でスタートした水木木材工業のIT改革。現在では、ほとんどの社員がkintoneを使用できるようになりました。「今後は、実際に使える業務アプリを作れるスタッフを育てていくことが目標です。そうすることで業務改善の可能性が増えますし、特に若いスタッフに関わってもらいたいですね」と磯崎さん。20代、30代のスタッフ2名を対象にkintone100日道場と題して業務改善アプリの制作を依頼するなど、積極的にリスキリングを推進しています。

実際に、製造に携わりkintoneを活用している中嶋さんにお話を聞きました。「kintoneを活用することで、事務所へ戻らなくても現場でデータをすぐに確認してフィードバック出来るので、業務が楽になりました。不便だなと思ったことを解決できるアプリを、自分で使いやすいように作れるのがいいですね」と、業務改善に役立てています。
社内のみならず、取引先をも巻き込んだIT化で他社との差別化に成功した水木木材工業。その成功の鍵は、「情報の共有」です。

製造ラインでアプリを活用する中嶋さん。kintoneの発注システムは顧客からも好評

水木木材工業株式会社

住所 茨城県那珂郡東海村照沼150
事業内容 海外輸出輸送・国内輸送・運送用梱包をはじめとした木箱・パレットの設計、製造、納品
HP https://www.mizumoku.com
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