県内のリスキリング事例

職人の技術と経験をデータ化
いち早くDXに取り組み業務拡大

株式会社ヒバラコーポレーション (茨城県那珂郡東海村)

品質や生産性の向上を目指すためには、ICTやIoTといったデジタル技術の活用が欠かせません。今でこそ当たり前の認識ですが、15年以上も前から既に「DX」へ取り組んでいたのが東海村のヒバラコーポレーションです。

元SEである小田倉久視社長の知識と経験を生かしてIT技術を駆使した事業に転換し、それに合わせて従業員のスキル習得を推進しました。

元々は工業塗装のみの会社でしたが、今では同社が開発したシステムを活用したコンサルティング業務や新商品開発まで手掛けています。

町の工業塗装工場から、工業塗装業界を牽引する最先端企業へ成長するまでのストーリーとリスキリングへの考えを聞きました。

元SEの知識と経験を活かし
社長自らIT化を推進

日進月歩の製造業界では、日々新しい技術や素材が誕生し、目まぐるしく成長を続けています。IT技術を活用した生産手法が開発され、積極的に取り入れなければ競合他社とのコスト競争で不利になってしまいます。その一方で、職人の勘と経験に頼る昔ながらの手法から脱却できないままの現場も数多いのが現状です。東海村の平原南部工業団地に本社を構えるヒバラコーポレーションも、元はそういった「町工場」だったといいます。そんな状況からがらりと方針転換するきっかけとなったのは1991年、小田倉久視社長の合流でした。

それまで主に手書きで保存していた創業当時からの膨大な塗装プロセスをデータベース化し、蓄積・分析しました。データに基づく提案はクライアントに対する説得力を増し、また「見える化」することで社員育成や作業効率化にも繋げることができます。そこで、同社では蓄積データを活かし受発注や塗装工程などの生産管理を行うシステム「HIPAX1(ハイパックス1)」を自社開発しました。

「大学卒業後、大手エンジニアリング会社でシステムエンジニアとして勤務していました。その後、家業を継ぐことになりヒバラに入社して、まず着手したのが書類関連のデータ化でしたね。例えば、当時は現場の図おこしを一回一回手作業で行っていたのですが、それをデータにして管理するだけで格段に手間が減る。パソコンなんてまだ一般普及していないという頃でしたが、私自身前職でソフトウェア開発なども手がけていたので、抵抗感もなく先んじてIT技術を取り入れることができました」と小田倉社長は当時を振り返ります。

従業員数は約50名。ロボット技術を駆使し、高レベルで生産性の高い塗装を実現。

40年超に及ぶ膨大なデータから
生産管理・技術支援システムを自社開発

同社では続けて、ロボットを活用した塗装支援やセンサー活用による前処理モニタリング管理、塗料配合診断など、技術分野をサポートする遠隔地塗装工場支援システム「HIPAX2」も開発。これは、塗装時の動きや位置を記録する「マスターアーム」を熟練職人に身に着けてもらい、実際の動作をデータ化して取り込み、ロボットアームにコピーすることで技術を再現させるというもの。当然、その開発は一朝一夕とはいかない道でしたが、社内にソリューション部を置いたことで職人とも密な連携を取ることができたといいます。「当たり前ですが、熟練した職人と若手とでは技術力に大きな差があります。逆に、ベテラン職人でも年齢を重ねるにつれどうしても技術は下降していくもの。そのギャップを埋め、品質を高める目的でロボット塗装技術を導入しました」と小田倉社長。

他にも、NTT東日本と連携しAIによる学習データを活用したロボットによる遠隔自動塗装プログラムも開発するなど、次々と先進的な取り組みを行い、工業塗装業界を塗り替えています。また、HIPAXシステムを通じてコンサルティング分野へもビジネスを拡大。人材不足や技術格差など工業塗装、製造業界共通の悩みを解決に導き、自社の価値を高めています。

自社システムを有する企業は数あれど、社内開発は塗装業界でも稀有と小田倉社長

社員とのコミュニケーションが
リスキリング成功の鍵

小田倉社長自ら陣頭指揮を執り、積極的にデジタル化を進めてきたヒバラコーポレーション。リスキリングという概念が定着するよりずっと前から、事業領域拡大のためのスキル習得を推進してきました。今後も、更なる成長のためにリスキリングは常に必要だと小田倉社長も話します。

「塗装作業をロボットで自動化したとしても、技術者・技能者が不要になるわけではありません。あくまで品質と生産性を高めることを目的としています。リスキリングを成功させるためにはまず、会社が目指しているもの、必要としていることを社員皆と共有し、仕事に対する意識改革を行うことが重要ではないでしょうか」と小田倉社長。社内のコミュニケーションツールとして「Slack(スラック)」の導入も有効な手段になっているそう。若手のみならずベテラン職人も活用しており、スタッフ間の業務連絡・相談をはじめ社長から社員へのダイレクトな情報発信などSlack上で活発にやり取りしているといいます。

同社では茨城大学をはじめ産学連携にも積極的で、希望があれば大学等での学び直しも後押ししています。また、ITパスポートを取得した社員も。しかしその一方で、すべての社員にリスキリングを勧めることが必ずしも効果的とは言えないと、小田倉社長は話します。「学ぶということは非常に重要です。ですが、意欲的なスタッフを支援するだけでなく、一人ひとりとコミュニケーションを取りながら、適性を見極め、足並みを揃えて人材育成を行わなければいけません」。

ややもするとリスキリングを行うこと自体が目的になってしまいがちですが、単に新たなスキルを身に着けるだけでなく、社内一体となって課題を解決していくことが肝要なのだと、小田倉社長は結びました。

東京にもオフィスを構える同社。Slack等を活用し、社内全体で連携を図る

株式会社 ヒバラコーポレーション

住所 茨城県那珂郡東海村村松平原3135-85
事業内容 各種工業塗装、ソフトウェア開発・ソリューション提供
HP https://kougyoutosou.com/
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