企業の優良事例

経営者主導の先進的なリスキリングで
事業多角化と持続可能な成長を推進

有限会社櫻井運輸 (茨城県古河市)

既存資源を利活用しつつ、生成AIやデータ分析を用いて新分野のアップサイクル事業への進出を図っている有限会社櫻井運輸。
事業多角化と少数精鋭での経営維持で持続可能な成長を実現するため、経営者主導で先進的なリスキリングを実践しているのが、櫻井正孝代表取締役です。
令和6年度茨城県リスキリング推進企業等表彰で最高位のベストプラクティス企業に輝いた有限会社櫻井運輸の櫻井代表取締役と、日本のリスキリング第一人者でいばらきリスキリング戦略アドバイザーの後藤宗明氏が対談しました。

経営者が自らリスキリングを先導
データ分析のスキルで残業時間を短縮

「経営者が時代の変化とともにビジネスの潮流を見ながら、自らリスキリングに取り組んでチェンジマネジメントし、新しい方向のビジネスを構築して会社の仕組みとして広がっている点が素晴らしいです。人数や規模が小さな会社でも、リスキリングの実践により企業変革できることを証明した好事例です」
そのように後藤さんが太鼓判を押すのは、有限会社櫻井運輸。
1964年の創業以来、社員20人余りの少数精鋭で物流を中心とした事業を展開してきた中小企業です。同社は持続可能な成長を実現しようと、輸送事業、物流センターの運営の基幹事業から危険物保管等の物流ソリューション事業、太陽光発電事業といった周辺事業まで多角的な事業を展開。
また、安全・環境両面に配慮した経営の推進や社員の豊かな人生を設計・実現する、働きやすい柔軟な職場環境の整備をフレキシブルに取り入れてきました。
社会インフラとして欠かせないロジスティクスは、ネット通販等に伴う対個人の配送量の増加などによりニーズがますます多様化。トラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制も始まり、業界は変革期の真っ只中。
さらに激動の時代に最適化していくため、物流事業の競争力強化と新規事業拡大を画策した櫻井さんは、デジタルスキルや業界特有のスキルを習得するための人事戦略を策定し、自社のリスキリング体制を構築しました。
櫻井さんは「同業種だけでなく、さまざまな他業種も含めて、経済誌の有料会員サイトやメルマガ、茨城県データサイエンティスト育成講座などのオンラインの勉強会、多種多様な生成AIの活用など効率的で網羅的な情報収集が奏功し、経営者発信によるリスキリング実施、新規事業へとつながりました」と振り返ります。
通常業務に支障をきたせば本末転倒となるため、手始めにリスキリングのスケジュールを業務時間内の週1時間に設定。データサイエンティスト育成講座など、業務改善に直結する内容の講座をeラーニングプラットフォームで自分のペースで学習できる環境を提供することで習慣化を促進することで、リスキリングの文化を社内に醸成していきました。
まずは経営者として櫻井さんがデータサイエンティスト育成講座などで得たデータ分析のスキルを活用し、労働時間の可視化とトラックの出庫時間を最適化に取り組んだことで、残業時間を平均15時間から10時間以下への短縮が実現。さらに、新規事業への進出をきっかけに、従業員の学びの文化が定着していきます。

代表取締役の櫻井正孝さん。自ら先進的なリスキリングを実践し企業変革を導く

雇用形態で区別せず非正規社員も講習実施
会社一丸となって事業改革を推し進める

そして、同社のリスキリング施策の最大の成果となるのが、「竹」に関する新規のアップサイクル事業です。
この新規事業を立ち上げた背景には、近年深刻化している「放置竹林問題」があります。安価な輸入品やプラスチック製品の普及に伴う竹の消費量の減少、所有者の高齢化により、放置された竹林が増加。その結果、全国各地の土砂災害や獣害の発生源となることをオンラインの勉強会で知った櫻井さんは、伐採した竹、つまり廃棄物を有効活用し、循環型社会に貢献できる環境ビジネスへの参入を決断しました。
事業の具体的な内容は、「竹チップ・パウダー」や「竹炭」の販売です。
茨城県内の放置竹林から伐採した放射能セシウム検査済みの竹を自社の粉砕機や無煙炭火器で加工・製造し、それらを農業用の土壌改良剤、畜産用の畜舎の床材として提供します。
製造から販売まで一連のノウハウや技術の習得のため、同社の従業員が外部専門家のオンライン講習を受講し、月1回のミーティングで進捗確認をして、スタートアップするための情報共有や課題をフィードバック。
その結果、担当社員が大手フリマサイトを通じて「竹ORI」のブランド名でネット販売をスタート。ページ運営や新商品の考案など、リスキリングで学んだスキルを実践できる機会を提供しています。
「私の方でChatGPTを活用していくつか候補を挙げましたが、社員の活躍の場となるよう、ブランド名や運用を任せています。まだ試作段階ですが、元大工の社員は竹を使ったコースターなど社員発の新商品を作ってくれたり、『フリマサイトで売れ筋のクワガタ用飼育マットもつくってみませんか?』と自発的に色々と調べながら取り組んでくれています。クワガタ用飼育マットの竹パウダーとおが屑の最適な配合を調べるため、ハルシネーション(事実に基づかない情報を生成する現象)が減るPerplexity(AIチャットボット型検索エンジン)を活用させていますね」と櫻井さん。
後藤さんは「マーケティング活動にAIを取り入れているのですね。ヨーロッパの方でデジタルとグリーンを同時に行うツイントランジションがリスキリングの主流。これを体現している国内企業は、まだほとんど存在していませんよ」と深く関心を示していました。
また、一般的にリスキリングは、資金力が豊富な大企業の正社員に対して導入されているイメージがあるもの。同社では雇用形態で差別化せず、パートスタッフも同様に取り組んでいることもポイントだと後藤さんは語ります。
「次のステージに向けて業務内容が変化していく中、非正規のパートスタッフの方にもデジタルマーケティング講習を実施しているのも特長的です。人を大切にしている社風の現れでもありますね」
櫻井さんは「私はあまりリスキリングという言い回しはしないんですよ。何気なく促して、了承のコミュニケーションを取った上で受けて貰っています。一緒に勉強会をやっていますから、私がやりたいことを汲んだ上で、『こんなのあるんですが、どうですか?』と彼らのアンテナの中で想像以上に色々と拾ってきてくれていますね」と語ります。

リスキリングから、新規事業の開拓にも繋がった好事例

継続したリスキリング施策で叶える
従業員の賃上げやさらなる新規事業

後藤さんは基幹事業の運輸事業に関して、リスキリングの観点から強化ポイントを尋ねると、「現場のドライバーのマルチタスク化ですね。弊社はローリー車(タンクローリー)を保有しているのですが、これは明日からあなたお願いねと言っても運転操作ができない。2、3ヶ月研修して、やっと独り立ちできる特殊作業車なのです。非常に投資費用がかかるのですが、休暇が取りやすくなり、職場環境の改善にもつながりますので2、3人育てていきたいと考えています」と櫻井さんは意欲を示します。
従業員の賃上げは、企業のリスキリング施策において重要なポイント。
同社ではリスキリングの受講費や資格取得にかかる費用は全額または一部補助するとともに、リスキリングの成果を評価するため、独自の明確な基準を設定。スキル習得や実績に基づいて評価し、資格手当も支給しています。
今後の見通しについて、櫻井さんは「トラックの価格など物価高の影響でどれだけ賃金に回せるかはクエスチョンですが、賃上げをしないと人材が定着しないので、そこは当然やっていかなくてはならない。賃上げの原資になる新規事業に社運が懸かっていますね。そのためにリスキリングを継続的に取り組んでいきたいです」と力を込めます。
乳酸菌と微生物が豊富な竹パウダーをベースにした新商品の企画も本格化させるなど、新たな一手を次々と打ち出している櫻井運輸。
国内外の企業や自治体へのリスキリング導入支援をしてきた後藤さんは、「リスキリングとは、企業変革の取り組み。会社とリスキリングの方針は一致しているものなので、経営者が自ら発信し従業員に習慣付けし、変革への取り組みにつながり、新規事業で新しい分野も支えている。運行管理の生産性を高める中で、従業員の方がリスキリングを通じてデジタルツールを活用し、できる限り少ない人数で回せる体制を作っているのもポイント。リスキリングに成功している経営者は情報収集の仕方がスタート地点で違うんです。櫻井社長はそこを早く取り入れているのも素晴らしいです」と評価していました。

企業にも社員にも好循環が生まれた櫻井運輸の取り組みを後藤さんも高く評価

いばらきリスキリング戦略アドバイザー後藤宗明氏 プロフィール

富士銀行(現みずほ銀行)入行。渡米後、グローバル研修領域で起業。帰国後、米国の社会起業家支援NPOアショカの日本法人を設立。米フィンテックの日本法人代表、通信ベンチャー経営を経て、アクセンチュアにて人事領域のDXと採用戦略を担当。その後、AIスタートアップのABEJAにて米国拠点設立、事業開発、AI研修の企画運営を担当。10年かけて自らを「リスキリング」した経験を基に、リクルートワークス研究所特任リサーチャーとして「リスキリング~デジタル時代の人材戦略~」「リスキリングする組織」を共同執筆。2021年、リスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。

有限会社櫻井運輸

住所 茨城県古河市高野903-1
事業内容 倉庫事業・運送事業・職場環境改善事業・太陽光発電事業・アップサイクル事業
HP https://www.jl-sakurai.com/
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