企業のリスキリング

DXの波を雇用維持の力に
医療事務の新たな未来を描く

株式会社サンテ (茨城県水戸市)

茨城県内を中心に薬局や介護事業所を運営し、地域医療・福祉に貢献している株式会社サンテ。政府が推進する医療DXの進展に伴い、従来の医療事務業務の在り方も変化しています。こうした環境の変化の中、同社は雇用維持を掲げ、ITトラブルやセキュリティ業務を担う「ネットワーク管理者」を社内で育成。IT化の促進と雇用の安定を両立する先進的な取り組みが評価され、「令和7年度 茨城県リスキリング推進企業等表彰」にてグッドプラクティス賞を受賞されました。
この度、専務取締役の鈴木宇子さん、医療事務の井野紫乃さん、吉田果歩さん、そして「いばらきリスキリング戦略アドバイザー」の後藤宗明さんによる、実践的なリスキリングのあり方を探る対談が行われました。

ITトラブルの解消を
医療事務の新たな活躍の場に

サンテの事業の柱は、地域医療を支える薬局事業。現在、医療業界ではDX化が加速しています。2025年にはマイナ保険証の利用が本格化し、2030年の電子処方箋の普及に向けたIT利活用が進むことで、医療事務の主業務である受付・会計・処方箋入力といった業務も、今後さらに効率化が進むと考えられています。
対談は、こうした環境の変化についての話題から始まりました。
鈴木さんは、「IT化の遅れが指摘されてきた業界ですが、コロナ禍を機に一気にデジタル化が進みました。業務の形が変わる中で、スタッフにどう輝き続けてもらうかが大きなテーマでした」と、組織のエンゲージメントへの影響を懸念していたことを明かします。
そこで浮上したのが、社内資格「ネットワーク管理者」の創設です。
「医療情報のクラウド化などにより、現場では新しい機器やシステムを扱う機会が増えました。トラブルで業務が止まり、現場が右往左往する。ならば、医療事務スタッフがITの初期対応を担えば、業務継続と新たな活躍の場作りが色んな意味で両立できるんじゃないか?と考えたのです」と鈴木さん。
これに対し後藤さんは、「雇用維持と実務上の課題解決を同時に叶える素晴らしい視点です。将来、AIやロボットが普及しても、トラブルシューティングという『人間が必要な仕事』を確保した意義は大きいですね」と評価します。
ITスキルの習得には、現場から戸惑いの声もありました。
現場の不安を払拭するため、同社はベンダーと連携し、電源の確認や再起動といった初歩的な対応をまとめた独自マニュアルを作成。少しずつ、スタッフの関心をITへと引き寄せていきました。
そしてIT関連の窓口となる人材、ネットワーク管理者の社内資格が誕生したのです。

適正な評価と「学ぶ空気」が
自律的な成長を加速させる

後藤さんは、リスキリング成功の鍵として「リーダーの抜擢」を挙げます。サンテでは、SE経験を持つ医療事務スタッフをリーダーに起用し、オンライン研修や現場巡回指導を実施しています。
鈴木さんは、「SEから未経験で医療事務に転じたスタッフが、現場の細かな相談事や書類の確認などの役割を担いながら、1ヶ月に1店舗のペースで現場を回っています。『知識を活かせるのが嬉しい』とリーダーを引き受けてくれました」と話します。
後藤さんはこれを受け、「既存のスキルに新しいスキルを掛け合わせ、新たな価値を生む『学際的スキル』がこれから大事になると言われています。社員の『スキルの可視化』をして人間の労働の価値を示し、輝くポジションを作っていますね」と応えました。
現在、ネットワーク管理者は全店舗に計22名配置されています(2025年11月時点)。落雷による寸断からの復旧やサイバーセキュリティ対策など、現場での一次対応を自社で完結。その前向きな姿勢が、他の社員にも「学びの輪」を広げています。

リスキリングとセットで重要なのが、適正な人事評価や処遇の制度整備です。
制度面では、資格取得に対する適正な評価を整備。ネットワーク管理者には月5,000円(年間6万円)の手当を支給しています。
立候補した井野さんは、「手当は個人的に大きな魅力。そして店舗にスキルが高い方が揃っていて、自分も活躍したい、チャレンジしたいと自然と感じる環境だったことも資格取得を後押ししました」、吉田さんも「色々と自分の仕事の幅が広がり、できることも増えます。それにやりがいを感じて、挙手して受験しましたね」と語ります。
同社では他にも、薬剤師補助や社外資格に対する手当など、多様な「アピールできる場」を用意しています。

人間ならではの
「健康の伴走者」へ

こうした取り組みを進めるサンテが見据えているのは、薬局が「地域の健康を支える場所」としてさらに役割を広げていく未来です。薬局に求められる役割が「物」から「人」へと変わっていく中、健康相談・予防サービスなどの地域の健康拠点としての役割、高齢者の増加に対応するため、在宅・訪問サービスの拡充、オンライン服薬指導やWeb健康相談などを取り組む将来像を描いています。
鈴木さんは、「地域のイベントなどで健康相談会を開催すると、『病院に行くほどではないけれど気になることがある』という相談を多くいただきます。そうした場をきっかけに、地域の方々の健康を支える役割を少しずつ広げていけるのではないかと思っています」と展望を語りました。
すると、欧米で大きなムーブメントになっている健康寿命の延伸を目指す『ロンジェビティ』をタイミング良くリスキリングしていた後藤さんは、大きく反応。
「日本は長年、健康を犠牲にして働く価値観が強くありましたが、少子高齢化社会の中で、中高年の方々が生き生きと長く働ける環境を用意しないと、本当の意味でのインフラの維持みたいなものが難しくなってくる会社も出てくるだろうと言われています。これから茨城県の未来を考える上でも素晴らしい話ですし、ぜひ取り組んでいただきたいです」と期待を寄せました。
最後に、鈴木さんは次のように締め括りました。
「2年前に後藤先生から『リスキリングは経営戦略である』と学び、固定観念が覆りました。今回の対談を通じて、変化への対応にさらに自信を持つことができました。今後も学び続ける意欲を持つ従業員と共に、選ばれる組織を目指していきます」

いばらきリスキリング戦略アドバイザー後藤宗明氏 プロフィール

富士銀行(現みずほ銀行)入行。渡米後、グローバル研修領域で起業。帰国後、米国の社会起業家支援NPOアショカの日本法人を設立。米フィンテックの日本法人代表、通信ベンチャー経営を経て、アクセンチュアにて人事領域のDXと採用戦略を担当。その後、AIスタートアップのABEJAにて米国拠点設立、事業開発、AI研修の企画運営を担当。10年かけて自らを「リスキリング」した経験を基に、リクルートワークス研究所特任リサーチャーとして「リスキリング~デジタル時代の人材戦略~」「リスキリングする組織」を共同執筆。2021年、リスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。

株式会社サンテ

住所 茨城県水戸市米沢町98-7
事業内容 調剤薬局運営事業、介護福祉事業
HP https://sante-g.com/
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