企業の優良事例

専門職も事務職も…全ての社員へ
用意されたリスキリングの場

海老根建設株式会社 (茨城県久慈郡大子町)

茨城県最北端の町・大子を中心に法面工事などの公共事業を手掛ける海老根建設。
担い手の高齢化と減少に対し、いち早く動く課題可決へシフトを切った柳瀬香織代表取締役。
事務職員にも開かれた学びの場で効率化を実現しています。

大正5年創業の老舗建設会社
女性も輝ける職場を目指す

法面工事、道路改良工事、河川工事、水道管工事など土木工事を主たる事業とする同社。若者に人気のない建設業界にあって、社内の高齢化が進む現状を憂いた代表の柳瀬さん。新しい技術がどんどんと入ってくる建設業界で、毎年のように変化するその技術革新に付いていけないままでは時代に乗り遅れてしまうとの危機感から、会社の中の長寿命化に着手します。
まず行ったのは、現場監督が行っている業務の洗い出し。250もある一連のタスクの中で、資格がなくてもできることを洗い出し、現場作業員がやるべき仕事と事務職員でもできる仕事に細分化。資格がなくてもできる仕事は、女性や若い職員に工事事務として建設ディレクターという職種についてもらい、仕事を振り分けていきました。社員への積極的な外部研修の後押しもあって、ICT化へスムーズに移行できたと言います。特にこの建設ディレクターには、新卒で入ってきた女性社員の中にPCの操作に長けたスタッフがいたので、測量データを3D化するなどの作業を行ってもらうようにしているといいます。
このように、全てのスタッフが新しい作業へ挑戦できる環境を用意すべく、柳瀬さんが自分でセミナーや講習会を見つけてきて、社員にメールを送るようにしていました。「メールを送るだけでは手を挙げてもらえないので、その講習会を受ける意味と目的を記した上で、人選をこちらで絞ってメールを送るようにしたところ、しっかりと講習会へ参加してもらえるようになりました。こちらとしてはいままでの業務になかったことを特に勉強してもらいたいと思っているのですが、社員の皆さんは日々の業務に追われていて自分で探すこともできないし、手を挙げることもできない。こちらでその部分と意思を示すことが欠かせないと思います」と柳瀬さん。地方公共事業では率先してICT化に取り組んでいます。

代表の武藤社長はこの積極性こそがリスキリングの肝だと強調します。「リスキリングには自ら学んでキャリアアップできる場が一番大切。例えば技術系で就職しても、次は営業、その次は開発に行くことも。社内の配置転換は各自がリスキリングをしているからこそ出来る賜物なのです。総合職文化の日本はリスキリングに向いていると思います」。

現在、関東道路はDX推進計画書を策定し、さらにGX(グリーントランスフォーメーション)分野に進出を目指したリスキリング推進の指針となる人材戦略も策定しました。
会社全体で月次の年間教育計画を定め、業務時間内でスキル習得に取り組めるよう社員のリスキリング環境を整備。また、研修プログラムや資格取得に必要な費用面のサポートを行います。人事面でもスキルの習得状況や達成した成果、業務効率の向上結果に応じた評価・処遇の仕組みを構築。DXを推し進めるため、DX人材の育成に注力する姿勢を見せています。

「アプリの導入も、SRPもDX事業の一つです。SRPのシステムは関連企業の業務効率化にも貢献しています。こうした取り組みがDXとして全て繋がり、最終的には再生可能エネルギーの普及や推進を目指していければ」と社の展望を語ってくれました。
新規事業には知識や先入観がない。故に貪欲さがあればどんどん学んでアップデートする。武藤社長が描く方程式が事業拡大によるリスキリングとなり、次世代の企業の姿を映し出していくことでしょう。

現在の建設業界に茨城県から一石を投じる柳瀬香織代表

結果を示して理解を得
更なる利便性を追究

「まずは、展示会で新しい技術に触れてもうことからスタートしました」と当初の思い出を振り返る柳瀬さん。「そんなことができるんだ!」という発見から学びの意欲を創出させるようにしている一方、それを無理強いするのは禁物。得意なことを伸ばしてもらうことが大切だとも柳瀬さんは語ります。「苦手なことを無理に学ばせてしまうと退職のきっかけになってしまいます。特に年配の社員さんに無理強いをすることは避けなくてはいけません。得意な部分を伸ばしてもらうことが重要です。その中で、若いスタッフを付けることで、逆に手が空いてしまったスタッフには新しい職場を用意。私たちは玉掛け技能講習の免許・資格のための教習所を立ち上げ、手の空いたスタッフの方にはそこで働いてもらえるようにしています」と柳瀬さん。いままでの経験を活かして教習所の講師を詰めてもらうというリスキリングを実現しています。
一方、事務職で入社した女性スタッフにディレクターを担ってもらうためのリスキリングにも努めています。実際にこの建設ディレクターも行うスタッフの塩田さんは「私は普段、経理とか総務が主な仕事です。勤怠管理や請求書支払い一覧との取りまとめを行っています。新卒ですが、ChatGPTなどの業務効率化に関する講習なども受けさせてもらっています。そういった講習を受けると、どんどん仕事が進むようになって、次の仕事をはじめるタイミングが早くなっていきます。また、講習も2~3カ月に1回はあって、難しい講習会もありますが、とてもやりがいを感じていますね。今後は、工事書類の部分で先輩社員の皆さんのお手伝いができるようにチャレンジしていきたいと思っています」と話します。
リスキリングによる好循環が社内に生まれ、ひとりのスタッフがマルチタスクやマルチワークを行える環境を整えることで社内の生産性を大きく上げることに成功しました。

レーザードローンのデータ解析や現場のIOT化を進める建設ディレクター課

女性も活躍できる建設業界へ
リスキリングが実現する夢

 建設業界で活躍する女性が集まる会の会長も務める柳瀬さん。男性中心と思われている建設業界ですが、女性が活躍できる場は数多くあると言います。そのひとつがICT化でありリスキリングであると言います。前述の通り、事務職を主体にしながら書類整理から入って、データ処理などを行うデータエンジニアへリスキリングすることで活躍できる場もあれば、機械化することで体力面での不安を払拭することもできると話します。海老根建設では実際に測量用のレーザードローンを導入しました。土砂崩れの危険がともなう傾斜面の測量をこのドローンが行ってくれます。ドローンの操作に体力はいりません。そしてなによりそのドローンが計測したデータを3D化し、可視化する作業は女性でも活躍できる分野です。いままでは非常に難易度が高く、危険が伴う作業とされていた法面の測量が、ドローンの登場によって一気に女性でも活躍できる職場となっています。
資格社会と言われている建設業界では、男女に関係なく、資格をとることで昇進や昇給が可能だと話す柳瀬さん。女性がもっと輝ける建設業界を実現するにはリスキリングが欠かせないものになっているのが事実のようです。
 数年間に渡り、スタッフが最新の技術に触れられる場やリスキリングにチャレンジできる場を用意してきた柳瀬さん。現在は約半数の社員がなにかしらの講習会に参加し、学びの場を体験してもらっていると言います。社内の長寿命化に学びは欠かせないとも語ります。
「これからは社員の方から改善したい業務、新しく身に着けたい資格を見つけて、そのための講習会を自分で見つけてくれるようになってくれたら嬉しいですね。クラウドを積極的に使って仕事をしていることもあり、事務所に残っている建設ディレクター課のスタッフが上がった写真やデータをすぐに書類化するなどすることで効率も大きく上がっています。現場の黒板もこの課で作ることで現場の負担を減らしています。残業時間も5割以上減って、社内の長寿命化につながっています」と柳瀬さん。社員が持つ可能性を最大化し、リスキリングを通じて会社全体の最適化を図っており、今後は茨城県のデータサイエンティスト養成講座も受けたいとも話してくれました。

クラウドを使うことで現場と会社の移動の時間を使って効率化

株式会社 海老根建設

住所 茨城県久慈郡大子町大子1835-2
事業内容 総合建設業
HP https://www.ebine.co.jp/index.html
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